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税務レポート「老人ホームへ入居、実家は売ってから相続? 相続してから売却?」

実家の売却と相続

解説:日本経営ウイル税理士法人
代表社員税理士 座間 昭男

将来の相続発生が予測される実家……。親が健在なうちに売るのか、相続が発生してから売る方がいいのか悩ましいところです。それぞれの税制上の特例を考えたいと思います。

譲渡所得税の原則的な計算式

売却によって生じた譲渡所得(譲渡益)には、給与所得などと分離して、税率がかけられ、所得税と住民税が発生します(以下の計算式)。

土地等や建物を売却した金額-(取得費+譲渡費用)=譲渡所得の金額

譲渡所得の金額×税率=譲渡所得の税金

税率はその不動産の所有期間が譲渡のあった年の1月1日において、5年を超えるかどうかで変わります。

  • 所有期間が5年以下の短期譲渡所得は所得税30.63%+住民税9%
  • 所有期間が5年を超える長期譲渡所得は所得税15.315%+住民税5%です。

マイホームの売却特例とは(生前中売却)

マイホームを売却した場合には原則的な計算に対して、特例の計算があります。
マイホームを売却した場合、譲渡所得から最大3000万円の特別控除ができます。

さらに、譲渡年1月1日において、10年を超える所有については、譲渡所得6000万円以下の部分について所得税10.21%+住民税4%の軽減税率が適用されます。逆に値下がりして譲渡損失が発生した場合は、一定の要件を満たす場合、売却年の他の所得と通算し、所得税や住民税が減ることになります。最長3年間、譲渡損失を繰り越して控除できる特例もあります。

ただし、マイホームの売却特例には細かく要件が定められています。詳細は担当者にご相談ください。売却益が出た場合は手元に相続財産として、多くの現金が残ることになります。

①被相続人の居住用財産(空き家)を売った時の特例(相続後売却)

相続で取得した空き家を令和5年12月31日までの間に、売却し、一定の要件に当てはまるときは、譲渡所得の金額から最大3000万円の特別控除ができます。この特例は相続の時から相続開始日以後3年を経過する日の属する年の12月31日までが譲渡期限となっています。

空き家の譲渡特例については、細かい要件(売却代金1億円以下等)が設けられています。また、適用を受けるための手続きについても細かい要件を必要とします。詳細につきましては、担当者にご相談ください。

なお、被相続人の居住用家屋の敷地を相続する場合、一定の要件のもと「小規模宅地等の課税価額の特例」(面積330㎡まで80%減額)があります。

相続税について、小規模宅地等の特例により相続税の課税価額の減額特例の適用を受けた上で、さらに所得税について空き家に係る3000万円特別控除の特例を受けることができます。ただし、小規模宅地等の特例は、その宅地等を相続税の申告期限(相続から10月)まで所有していることが要件ですので、売却時期に注意が必要です。

②相続税の取得費加算の特例との選択適用

相続した土地等を相続税の申告期限の翌日から3年を経過する日までに、譲渡した場合は、相続税額の一部を取得費に加算して譲渡所得を計算することができる特例がありますが、「空き家に係る譲渡所得の3000万円特別控除の特例」①との選択適用となっています。
取得費に加算できる相続税額は、以下の算式により取得した金額となりますので、相続税額が3000万円を超える場合は、試算してみる必要があります。

譲渡者の相続税額×譲渡した土地等の取得の財産価額/相続により取得した財産の価額の合計額

③その他の特例との適用関係

ⅰ・共有で相続した空き家の場合

空き家の3000万円特別控除は、適用対象者ごとに空き家3000万円控除の適用が可能です。2人で共有の場合3000万円×2=6000万円相当の控除が可能です。
ただし、「譲渡対価1億以下」の要件は、全体の譲渡対価で判定します。

ⅱ・同一年度に相続物件(空き家)と自己の居住用物件を売却した場合

同一年度に相続物件とマイホームを売却した場合、2つの特例を適用することは可能ですが、限度額は(両方の合計額の6000万円ではなく)3000万円が限度額になります。
居住用財産の譲渡所得の3000万円特別控除の特例の適用を受けた場合、その年、その翌年及びその翌々年について適用制限(特定居住用財産の譲渡損失の損益通算及び繰り越し控除や住宅ローン控除他は適用できません)が設けられていますが、空き家に係る譲渡所得の3000万円特別控除にはこれらの制限は課されません。

最後に

居住用住宅等を売却してから相続する場合も、相続してから売却する場合も、適用される控除や特例をよく理解し、要件や期限を見逃さないことが重要です。


相続に関して、不動産の売却予定がある場合は、ぜひ事前にご相談ください。

2020年10月1日

日本経営ウイル税理士法人
代表社員税理士 座間 昭男

本稿は掲載時点の情報に基づき、一般的なコメントを述べたものです。実際の税務・経営の判断は個別具体的に検討する必要がありますので、税理士など専門家にご相談の上ご判断ください。本稿をもとに意思決定され、直接又は間接に損害を蒙られたとしても、一切の責任は負いかねます。

  • 事業形態 事業・国際税務
    相続・オーナー
  • 種別 レポート

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